太右衛門と天狗
今から450年もむかしのこと、八幡平に太右衛門という人がいた。この太右衛門は、力が強くて、太い松の木を根っこから引きぬくほどだった。
太右衛門はいつも、「何とかして、天狗みたいに力持ちの人になりたい」と考えていた。
そこで太右衛門は、近くの夜明島の奥深くに住んでいるという天狗にあこがれて、ついに家を出て行ったのである。
40歳も過ぎたある夏のこと、夜明島のずっと奥まで入っていくと、とてもとても大きな千丈幕と呼ばれる岩にたどり着いた。その岩の上からは水が勢いよく落ちて、その滝の水しぶきは光が当たると、きれいな五色の虹を描いていた。地面からは「どーん、どーん」と大きな音が鳴り響くほど大きな滝であった。
この滝は、泊り滝という滝で、太右衛門は静かにかしこまって滝の前まで歩いて行った。そして、手を合わせて、「何とかして俺に神通力を与えてくれ」とじっと拝んだ。
すると、「私は、女滝だ。おまえの願いはかなえられない」と滝の中から声が聞こえてきた。
がっかりしたが、太右衛門は40歳を過ぎていたものの非常に力持ちであったため、あきらめずにさらにどんどん奥に入っていった。
しばらくすると、高さ300尺(約90m)もある夜明島渓谷で一番立派な茶釜滝の前に出た。そこでまた太右衛門は拝んだ。
ずっと拝んだ。すると、「いかにも俺が男滝だが、もう歳を取ってしまって、お前の願いを聞いてやることができない」と滝が答えた。
太右衛門は、それなら仕方がないと肩を下して、歩いてきた川原を戻った。
“トッチャカ森”まで来ると、急に下っ腹が、うっうっ、となって、不意に大きな屁が「びーっ」と鳴り響いた。あまりの大きな音に、あたりの木もぶるぶると震えだしているではないか。太右衛門は「何と、大きな屁だ。俺には、まだまだ力が残っている。もう一回、願い事を頼みに行こう」と言って、茶釜滝へ戻った。
それから、何日も何日もお願いしていると、滝が、「それほどまでの頼みならば、神通力の一端を授けよう。われについて来い」と言って、滝の化身の天狗が現れた。
太右衛門は喜んで天狗について行き、毎日厳しい修行を続けた。何年も修行を続け、ついに天狗の力を手に入れることができた。
更新日:2024年02月01日